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カメオを買おう

今にして思えばこんなあいまいな、しかもエキスパートでもない能力を盾に何が出来るのか、はなはだ怪しいものですが、当時の私は自分が国際人になったかのような錯覚があり、かっこいい仕事に就けるんじゃないか、などという淡い期待を措いていました。
゛仕事をして、両親を安心させなくては″と決意も新たに就職活動をはじめたのですが、なんの能力もない女に就職の道は大変厳しかったのです。
当時、新聞などの求人欄では「女性は二八歳まで」という条件がほとんどで、面接にさえこぎつけることができないことも多く、面接してもらえるチャンスを得たとしても、私の働きたい意志と、会社の求める女性社員の像とはかけ離れていました。
つまりアシスタント的な人が欲しいだけで私のように自分の意見を世界の見地から拾ってくるような、つまり生意気そうな人はいらないということでした。
いくつも、いくつも会社に問い合わせをしてみては門前払いを受け、いよいよ私は自分でなにかを始めなければ生きてゆけないのではないかしらと本気で考え始めました。
就職活動をする傍ら、四年にわたる海外生活の車でずっと趣味としてきた、蚤の市で収集した雑貨を売り払って少しでも生活の足しにしようと毎週日曜日にどこかしらで開催されるフリーマーケットに出品しまくっていました。
朝九時頃から始まるマーケットに、その日に決めたテーマの商品を持ち込んで綺麗にディスプレイしてお客さんを呼び込むのはとっても楽しいことでした。
最近は日本でのフリーマーケットにはほとんど行くことがなくなってしまったので最新の状況がどうなっているのかわかりませんが、私が出品していた頃は皆、家から愛すべきガラクタを持ち寄ってただ置いて売っていたので、私のように〝今日の商品コンセプト″なんてタイトルを書いて、それらしいディスプレイを綺麗にして私自身が品物に溶け込んで販売している……なんて人は一人もいませんでした。
私の「商品」を見てくれるお客様にはそれはどこで買ってきたものか、そこにはどんなエピソードがあって、その国の様子や人々がどんな暮らしをしているのかなんてことを永延と語っていたのです。
私の「商品」は、「もっとないの?」とお客様に催促されるほどいつも瞬く間に全部売れてしまいました。
面自半分のつもりで出品しはじめたフリーマーケットでしたが、私が持ち込んだ日本ではあまり見たことがない珍しい雑貨はいつも大人気。
そしていつも聞かれたのは「ふだんお店はどこでやっているのですか?」私の持ち込んだものがどう見ても家にあったガラクタには見えなかったらしく、「商品」を買ってくれるお客様たちは、私がどこかでお店をやっているものだとばかり思い込んでいたようです。
思い起こせば突然敷かれたレールのうえを走るのがイヤになり、一番大切な時期に外国でふらふらすること四年あまり。
本来の目的とは全然違って人の暮らしを覗き見して歩くばかりの日々。
でもそんな日々を過ごしてきたこと全部に大切な意味があったとしたら……?神様は私に雑貨屋さんをやらせるために、就職の道も閉ざして私に試練を与えたのだとしたらと確信めいたものを感じて興奮する自分を抑えることが出来ませんでした。
そして、どこにも就職できない惨めな自分から脱出するためにも、それまできちんとお勤めしたことが一度もなかったのに、無謀にも雑貨屋さんをやることに決めてしまったのです。
こうして私は自己資金ゼロで会社をはじめました。
しかしお店をはじめたのではなく生活維貨の輸入商社をはじめたのです。
理由は簡単、お店をはじめるだけのお金がなかったからです。
それと当時、私の武器は英語力と異文化の中で身につけた自分のプレゼン能力、それに外国のすてきな繊維を日本にも紹介して一人でも多くの日本の女性にすてきな暮らしをしてもらいたいと願う思いの強さでした。
お金を借りるために当時つきあいはじめていたお店に頼み込んで半分ウソの購買計画書にサインを買い、国民金融公庫一班・国民生活金融公庫にお金を借りに行きました。
私はそこで貸付してもらったお金を握り締めて、すぐに商品を仕入れにイギリスのトレードショウに出かけて行ったのです。
初めて訪れた海外のトレードショウの規模の大きさ、商品の可愛さ、各ブースにいる、やる気があるんだかないんだかよくわからない、ワインをあおって赤い頑をしているおじさん達の怖いこと。
一人ぼっちで私は圧倒されていました。
ふと見ると、ウエッジウッドやアビランドなど高級陶器メーカーが居並ぶ横で、イギリスの陶器のメーカーでとっても可愛い植木鉢が並んでいるブースが目に留まりました。
よく見るとマグカップなどもカジュアルな中にも優しく品があり、大人っぽくて可愛いのです。
すっかり気に入った私は早速取引をしたい意志をブースにいたダンディなおじさんに伝えました。
イギリスに行く前に読んだ本に書いてあった「海外の会社とスムーズに取引する方法」のマニュアル通りに大人っぽく知的に装い、シビアな顔つきで「私は日本から来ました。
東京ベースで仕事をしていて生活雑貨を扱っている輸大商社兼販売会社です。
あなたの商品を扱いたいのですが取引条件を教えていただけますでしょうか」と言いました。
私のことを胡散くさそうに見ていたそのおじさんはしばらくして、なにやら紙を片手に私のところに寄ってきました。
見てびっくり!!そのおじさんが見せてくれたリストには名だたる、日本を代表する大手百貨店の名前、私でも知っている商社の名前がずらりと並んでいるではありませんか。
もうここで〝負けた、自分には太刀打ちできない〟とがっかりしました。
私は相手が大きければ大きいほど、ライバルがいればいるほど張り切るタイプ。
もう、この段階で私の学んできたマニュアルは通用しなくなったわけです。
そうなったらあとは開き直りの私スタイルで行くしかありません。
どんな顧客に向かって、どのように、何をポイントにして売ってゆくのかという明確な考えを話したわけです。
おじさんは黙って聞いていました。
その日はそれで「考えさせて欲しい」と言われたので引き下がりました。
正直心の中では「あ~ぁダメだろうなあ」「どう考えても私があのおじさんだったら、私を選ばないよね~」なんて思っていました。
でも翌日の朝早く、泊まっていたB&B(ベッド&ブレックファーストを提供する民家のような宿泊施設のこと)の奥さんに起こされて、「日本から電話よ」と言われて何事かと慌てて飛び起きてみたら、昨日のおじさんがどうしても私ともう一度話がしたいからブースに来て欲しいと日本にまで電話が来た、ということでした。
お金がなくて普通のホテルなどには泊まることの出来る身分ではありませんでしたから、おじさんには日本の住所と電話番号が記してあるにわか作りの名刺を渡してあったのです。
なんだろう?どうせダメだけどあまりに私が必死だったのでかわいそうだから「残念だね、悪いね」くらいは言ってやろうと思ったのかななどと思いながら昨日のブースへ行きました。
そうしたら、なんとそのおじさんはアジア地区のセールス総賞作者であり、その会社の副社長さんと一緒に私を待っていてくれました。
私の顔を見つけるなり、昨日とは打って変わってにこやかに、「調べさせてもらいました。
カメオからはシャープな印象を受けました。和の心を加えたカメオです。
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